自分らしさを組み合わせて強靭な組織を作る/サッカーW杯日本代表にみる和の力
4年に一度の世界の祭典、サッカーワールドカップ2018が盛り上がっています。
日本代表も1勝1敗1分けでグループリーグを突破し、決勝リーグに進みましたが、惜しくも、FIFAランク3位のベルギー代表に敗れてしまいました。
W杯開催2ヶ月前の監督解任劇のゴタゴタから、よくここまでチームを整えて戦ってきたと思います。日本代表選手や監督、スタッフの方々には、本当に「お疲れさま」の気持ちです。
開催前の下馬評では、あまりいい評判ではなく、冷めた目で見ていた国内の盛り上がりもイマイチでしたが、結果としては、大いに盛り上げてくれました。
日本代表が世界を相手に善戦したのは、日本らしい組織的なサッカーに立ち戻ったから、とよく言われます。
もともと、東洋人的な特質からか、身体も小さく、筋力などのパワーでも欧米に比べて基礎体力が劣ると言われています。
そうしたなか、日本らしいサッカー、組織的というのは、どういうことなのでしょうか。
組織的に戦うということ
よく、日本サッカーの特徴として「組織的」ということが挙げられます。身体能力で劣る分を、メンバーが細かい約束事を守ることによって集団でカバーしていくという戦略です。
そこには、個人というよりも、チームという公(おおやけ)を重視した戦略です。自分自身の欲望は抑えてチームのために才能をささげる、という戦略でしょうか。これは行き過ぎると自己犠牲ということになってしまいますが、W杯で決勝トーナメントに出場して、さらに勝ち上がっていく、という共通の目標を分かち合っているからできることでもあります。
自分が目立つことよりもチームが勝利することを喜ぶことができるというマインドです。
よく「和の精神」と言いますが、古来から日本人のDNAの中に刻み込まれた性質であるとも言えます。自分の欲望を暴走させずに他人との調和を図ることに重きを置く価値観です。
チームが勝つことに徹する、というのは、簡単なようで簡単ではありません。
例えば、会社員の人だったら
「俺の給料は安く据え置かれたままでもいいから、そのぶん会社がよくなってほしい」
とは思えないものです。
サッカーに関して言えば、自分でシュートを決めたいところを、あえてパスして仲間に譲ることもあるかもしれません。攻撃参加だけしたくても、味方がピンチになれば自陣に戻って積極的に守備をすることもあるでしょう。
チームが勝つにはどうしたらよいか、と考えると、自分の欲望だけで動くことが合理的ではない場合が多いのです。
欲を抑えてチームに尽くす。これが組織力の厳選になります。迷った時には、「チームのため」というキーワードから判断をしていくのです。
日本らしさは没個性ではない
それでは、チームという公(おおやけ)のために、ひたすら自己を犠牲にすることが組織力のアップに欠かせないことなのでしょうか。いや、そうではありせん。
自己を犠牲にしていては、自分の才能を組織の中では活かせないことになってしまいます。
組織的に戦うというのは、「チームのため」を思って行動することですが、個々人の才能を発揮できないのであれば、組織として統率が取れていても軟弱なチームです。
そこで、「チームのため」に行動しても個々人の能力が抑圧されない方法を考える必要が出てきます。
それが、才能を組み合わせて、組織としてもっとも最適なチームを作り上げる監督の采配です。
もし、ドリブルの得意な選手ばかりでチームを構成したら、組織としては、強力なドリブルによって相手陣地に切り込むことができるかもしれません。しかし、相手チームが「ドリブルをさせない」戦略を取ってきた場合には、唯一の能力が潰されてしまったので、途端に弱点だらけのチームになってしまいます。
そこで、ドリブルの得意な選手、パスの精度が高い選手、フリーキックが得意な選手などの能力や、チーム内でペアを組む相性などを考慮して、もっとも調和がとれて強靭な組み合わせを探っていくのです。
単純にサッカー技術の才能を組み合わせただけではないでしょう。サッカーをやるのは機械ではなくて人間なので、どうしてもパスが通りやすい相性、などというものがあると思います。
才能を殺すことなく組織に組み入れる、ということに、今回の西野監督は腐心したのではないでしょうか。
これは、ある意味、料理対決に似ています。
西野監督は、日本人なのだから和食で勝負しようと思ったはずです。だから、素材の味を活かすために、調味料や時間のかかる熟成はほどほどにして、手早くできるけれども、美味しくて栄養もある和風定食を作ったのではないでしょうか。
ハリルホジッチ前監督は「和食だけでは世界では戦えないから、がっつり肉も食え!」とステーキを作ろうとしたのかもしれませんが、日本人には重すぎたのかもしれません。
もちろん、ハリルホジッチ前監督のベースの部分があるので、和食の中でも、「肉じゃが」という形で肉料理も引き継いだかもしれません。
出来上がった和風定食とステーキで、どちらが美味しいかという対決では判断が難しいと思います。でも、日本人なら和食のほうがあっているはずだ、ということで、和食にあった素材を厳選して集めてきたのだと思います。
会社の組織でも個性を活かしたマッチアップを
会社の組織とは、典型的な統制のもとに置かれた集団です。しかし、実際に、社員それぞれの個性を引き出すことのできるようなチーム作りを行なっている職場は少ないと思います。
中堅以上の会社では、「幅広い業務を経験させるため」ということで、社員にいろいろな部署をまわってもらう、ということが普通です。個人の特性に着目した人事を行うことはしません。というより、個人の特性がわからないので、個性を活かした、いわゆる適材適所の人事ができないのです。
個人の特性を知るには、基本的には、その人のことをよく観察する必要があります。興味関心を持って気に留めておくのです。実は他人の言動というのは、意識していないと、たまに異常行動した時の様子しか印象に残りません。
部下や同僚のニュートラルの状態を観察するには、興味関心を持って接するしかないのです。そうすると、何が得意分野なのか、どういった才能があるのか、ということが浮き彫りになってくるでしょう。
もうひとつの方法としては、その人のデータを取り寄せるという方法もありますが、今回は割愛します。
今の時代は、特に歴史のある企業のほうが、前例主義を脱することができずにいます。そして、社員という個人に対して、組織への忠誠を強いてばかりいるのです。
組織というチームのため、というのは、メンバーが意図する方向性が一致した時には大きなパワーとなることがあります。しかし、同じような人が集まってしまったり、個々人の才能や個性を無視した寄せ集め集団だと、個の力が生かされず、チームとしての推進力が生まれてきません。
今回のサッカーW杯日本代表の試合を見ていて、そのようなことを感じました。
自分らしさを最適に組み合わせると最強になる
日本人らしい和を考えた時、公(おおやけ)という集団に対する忠誠心や自己犠牲を要求することが「日本らしい」とは思いません。
和とは、助け合いが連鎖した結果、自分のところにも助けがまわってきて「輪」が閉じて「和」になる、のではないかと思っています。
そのためには、自分の能力を発揮できることで他人の役に立つことが、集団にとって必要になるはずです。個人の才能が最適に組み合わされた組織は、それこそ最強のチームになると思います。