詩的なビジネス文書ではきっと大混乱。でもやってみたい。
会社員は「会社員というテンプレート」の中に収まって生活しています。文書にしろ生活様式にしろ、会議の仕方にしろ、それはどの会社でも画一化された形式に従って動いているのです。
逆に、会社員というテンプレートを外れてしまうと、先輩も上司もあなたの作成した資料や行動を評価することができません。今まで伝統的に使っていた「ものさし」が使えなくなってしまうからです。
詩的なビジネス文書は罪なのか
ビジネス文書という時点ですでにかなりテンプレート化されています。大概の会社では過去に作成した文書を使って、単語だけを更新して新しい文書として社内に発信していると思います。
会議の参加依頼文書などは、ほぼ書式が決まっていますね。
例:
平成29年8月28日
(臨時部長会議のご案内)新規事業の進捗と今後の対応について
表記の件につきまして、下記のとおり臨時部長会議を召集いたしますので、
ご参加の程、よろしくお願いいたします。
記
1.日時
平成29年8月29日(火)17時から18時まで
2.場所
本店4階第1会議室
3.出席者
各部長および事業開発課長、経理課長
4.議題
(1) 上半期の売上見通しについて
(2) 今後の対応策について
5.添付資料
(1) 8月度までの売上実績推移
(2) 売上減少に伴う収支に与える影響
以上
しかし、これを次のように情緒的に書いて発信しようとしても怒られてしまうでしょう。
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「長(おさ)の集い:生まれ出でた、なりわいを見守るために」
集いましょう。わたしたちのために。
集いの始まりは、ちょうど上弦の月が満ちる13分前、
終わりは、地平線に今日の光がほのかに消えゆく日没まで
場所は、
公園が見下ろせる東南東の黄昏プレイス、最初に来た方は、その時刻、ただひとつ右の窓から差し込む光に照らされる椅子にお掛けください。
残りの方は、直感でお席をお決めください。
お越しの方は、
仲間を見守るオサであるあなた方、そして、今いちばん助けを必要としているSさん、そして数使いのWさん。
お品書きは、
「この世界に新しく生まれたナリワイの育み具合」
と
「これから羽ばたく未来のために私たちができること」
ささやかに添えるメッセージ:
「ひぐらしが鳴くころまでの数字のストーリー」
「私たちの世界に与える新しいナリワイからのギフト」
執筆日:「七夕の節句(しちせきのせっく)」の日に、朝日の差し込むデスクにて。
やっぱり会社はポエムから遠い世界
ビジネス文書というのは、わかりやすくて簡潔に、読んだ人に内容が公平に伝わるように作らなくてはならない、と教え込まれます。ビジネスの世界では、そうした共通認識がないと混乱してしまう、というのが理由です。
同じような書式、同じような内容でないと、作る方も受け取る方も安心できないわけです。
「アタシはアタシの個性を出す!」って頑張っても、上のような部長会議の招集文書では、上司のハンコはもらえません。「なに遊んでいるんだ!」と怒られて終わりです。
世の中の広告やテレビコマーシャルでは、情緒的な表現やファンタジックな言葉が多く使われているのにもかかわらず、会社の中ではNGです。
実は、上のような文章を(内容はまったく違いますが)、社内で発信しようと思ったことがあったのですが、勇気がなくてできませんでした。やる理由も、それほど強いものではなかったということもありますが、わざわざ会社の風土にあがなうこともないだろうと封印してしまいました。
(こんなことを考えている段階で、ヘン!ですが)
会社はテンプレートで満ちている
普段はあまり認識していないことですが、会社の背景にあるそのようなテンプレートによって、うまくいっているとも言えます。逆にいうと、会社をうまくまわすために、そうしたテンプレートの設定した人がいて、それが脈々と受け継がれているのです。
そして、私たちは、そうした会社の背景にある設定に気づかずに、その設定を使っています。そして、それが効率的、合理的な仕組みとして会社を支えているのです。
しかし、私たちが、普段なにげなくやっている仕事のやり方とか、文書の書式とか、会社の中での振る舞いとか、そうしたものの背景には、当たり前すぎて気づくことのない「設定」に支配されているとも言えます。そして、その設定に乗っかって仕事をしているのです。
その「設定」からはみ出ると、あなたは会社のなかで「異端」になります。
設定から外に出てしまうわけですから。
しかし、その「異端」が、時にイノベーションを起こすことも事実です。
設定を守っていくということは、なるべく変わらずに行こうという意思の現れでもあります。
設定の外に出て異端になり、その異端者がもとの設定を書き換えた時、また新たな設定がセットされます。異端の人は新しい舞台を創造したわけです。そして、新しい設定の中では、異端者は異端ではなく「普通」になります。そしてまた、「新しい普通」の中からは、また別の「異端」が出てくるかもしれません。
これは、会社の中に限らず、世の中を見回しても、新たな設定が書き換えに遭遇することがあるでしょう。
今までダメ、と言われていたものが、OKになってしまったり、OKだったものが古い、と言われてしまう時代です。
例えば、バブル期までは「モーレツ社員」といって、昼夜問わず会社のために根性で尽くす社員が素晴らしいと賞賛されていました。「24時間、戦えますか」という栄養ドリンクのCMも流れていたかと思います。
もちろん、今でもこうしたがむしゃらに頑張ることに価値を置いている人もたくさんいると思いますが、今では働き方改革と言って、そうした働き方に対して是正をうながす世論が大きくなって来ています。
これも、世の中という大きな舞台で、設定が書き換えられようとしていることが伺えます。
そして、今後、この世の中は、どのように設定が書き換えられていくのでしょうか。
あなたが望もうが望むまいが今の仕事の殆どがロボットによって代行される
「20年後、あなたが望もうが、望むまいが現在の仕事のほとんどがロボットによって代行される」
これは、
グーグルCEOであるラリー・ペイジが、フィナンシャル・タイムズ(2014年10月)のインタビューで答えたものです。
ということは、今から10年後くらいには、かなりその潮流が迫って来るだろうと想像できます。
会社員の世界も大きく設定が書き換えられるかもしれません。
その世の中の設定を大きく変えてしまうだろうと言われているのは、人工知能AI(Artificial Intelligence)ですね。
私たちにはあまり馴染みのないものですが、将棋の電脳戦や囲碁の名人にAIが勝利したというニュースは記憶に新しいと思います。
すでに、証券会社で株式や外貨を売り買いするディーラーは、いま注目のAIのディープラーニングシステムに取って代わられようとしています。
もう、人間の判断による売り買いがAIにかなわなくなってきているわけです。
いま、ディーラーがやっているのは、人工知能が売り買いをしている画面を見ているだけ、とも伝えられています。
両手に電話を持ちながら売り買いの注文を出す時代は終わってしまったということですね。
まとめ
今、会社の中で常識とされている仕事のやり方や生活様式も、意外と近い将来、大きく変化していきそうな気配です。でも、いちばんそのような変化から遠くにいるのも会社員であるとも言えます。
会社の設定した枠からはみ出ないように仕事をしているために、なかなか変化に気づきにくいのかもしれません。
これからの変化が、会社員にとって脅威になるのか、楽園になるのかは、正直わかりません。
ただ、時代はスピードを上げて変化しているので、あと数年で思わぬ世界が出現していることでしょう。
会社の背景にある設定から、はみ出たり、設定を書き換えてしまうようなことは、普通は怖くてできるものではありません。でも、いずれ、その他大勢のプレイヤーから抜け出して、設定を書き換える主催者たる誰かが現れます。
そうしたことにも、対応できるようなやわらかさが求められているように思います。
もしかしたら、その設定を書き換えるのは、あなたかもしれません。