会社でよく聞く「俺は聞いていない」の真意とは/根回しが必要な事情
会議は会社らしさを維持するには欠かせないセレモニーです。
大企業になればなるほど、会議と呼ばれる集合が多くなります。
会議のほとんどが白熱した議論が交わされるわけではなく、すでに既定路線となっているものを淡々と処理していく場となっているようです。
むしろ、会議で喧々諤々(けんけんがくがく)とやりあってしまえば、会議を運営している事務局から「ちゃんと根回して荒れないようにしなきゃ、ダメじゃないか!」と怒られてしまいます。
それにしても、なぜ会議の前に十分な根回しをしておかなくてはならないのでしょうか。
伝統的な会社の場合、会議はセレモニーに過ぎない
会社の会議では、白熱した議論が展開されていった結果、役員やリーダーが最終的に結論を下す、という光景が目に浮かぶ人もいるかもしれません。
しかし、会社の会議の実態は、資料を説明して2、3の質疑応答があってから「じゃ、これで進めてくれ」といった感じで終了する、というのがほとんどです。
というのも、会議が始まる前には、すでに案件の結論が出ているからです。
重要な案件の結論を出す会議が始まっていないのに、すでに結果がわかっているというのも変な感じがしますが、実際には会議が始まる前にはすべてが終わっています。
つまり、重要な案件ほど、会議はただのセレモニーとなります。逆に、会議をセレモニーにしてしまうことが優秀なサラリーマンであるとも言えるのです。
それはなぜでしょうか。
特に伝統的な会社であればあるほど、職場内で揉め事があることを嫌う傾向があります。
仕事は温和にスムーズに行うことが第一に求められているのです。
そのための所作といえば「根回し」です。
会議の何日も前から、案件に対して関係者に事前了解を取っておくのです。
この「根回し」をしておかないと、案件の結論が正論であっても、会議で否決されてしまうことすらあります。
その時の理由は、
「俺は聞いていない!」
…というものです。
事前に聞いていない、というだけで、特に問題はなく正しい結論でも否決されてしまうのです。
「俺は聞いていない」という真意は何か
根回しというのは「俺は聞いていない」という関係者をなくすための行動である、ともいえます。
要するに、案件に関わる関係者には、全員に話を通しておかなくてはならない、ということです。
ところで、なぜ事前に話を聞かされていないと偉い人は「俺は聞いていない」と、ふてくされてしまうのでしょうか。
重要人物と思われていないことに傷つく
一番の理由は、自分のところに話が来なかったということで、自尊心を傷つけられてしまうからです。
例えば、オフィスのレイアウトを変えることになって、それぞれの部長席を動かさなくてはならないとしましょう。
総務部でレイアウト案を考えて会議にかけるとします。
会議で知った部長本人の席には、ちょうど柱があって少し不便。でも、近くには、自分よりももっと先輩の部長席が配置されており、どっちにしろ、柱のところに自分の席を設置するしかない。
でも、この件について、レイアウト案を作成した総務部から会議までに事前相談がなかったとしたら、どうでしょうか。
柱の近くの席にならざるを得ないと総務部も部長本人も分かっていたとしても、一言あるのとないのとでは心象にだいぶ違いが生まれてきます。
良いレイアウト案であったにせよ、会議では「この配置では職場全体の仕事の効率に影響するのではないか」などと、反対意見を述べてスムーズに決着しないかもしれません。
レイアウト案を作った人にしてみれば「今更どうしようもないし、いったい、どう配置しろというのだ」と理不尽に思ってしまうかもしれません。
要するに、心象を害してしまった部長が、「難癖を言っておかないと気が済まない!」という本質ではないところで抵抗してしまうのです。
案件の結論を出すのに十分な時間が確保されない
会議前までに案件の概要と、作成者の結論を知っておかないと、自分の意見を整理しておく時間がなくなる、ということが挙げられます。
会議で意見を求められても、落ち着いた時間で十分に検討する余裕がないために、いい意見をいえないかもしれません。会議に望むための十分な時間を確保できないのです。
根回しをしてくれるのであれば、案件の意図や本音のところを作成者から聞き出せるゆとりが生まれます。
会議では基本的には建前の理由で案件の説明が進んでいきますので、「本当のところ」という本音をつかんでおくと会議の間も安心なのです。
会議で醜態をさらすことに対する恐れ
上述の「十分な時間が確保されない」と関連しますが、会議はそれなりの役職の人たちが集まる場でもあります。自らの発言は、時に議事録に掲載されることもありますし、役員などのいわゆる偉い人が列席することもあります。
そうした会議の場は、時に自分たちのアピール合戦や良い意見を言って自己評価を高めようとする場合もあります。
もし、事前に会議にかける議題について、十分な情報を持っていなかったとすると、そうした大事な会議の場で、トンチンカンな物言いをしていまい、醜態を晒してしまう可能性もあります。
そうしたことの恐れがあるために、根回しで、事前に情報を入れてもらうことや、「自分はこのような意見を持っている」ということを根回しの段階で伝えることを望んでいるのです。
こうしたことないと「俺は聞いていない!」というフレーズで自分を守るよりほかありません。
さいごに
会社の会議はセレモニーに過ぎないからこそ、事前の根回しで関係者に情報を入れておくことが重要となります。
平穏な人間関係を維持しつつ、粛々と仕事を前に進めるための伝統的な会社文化なのかもしれません。
逆に、会議がセレモニー化されていない会社もあります。ベンチャー企業や少人数の小回りのきく職場などです。
活発な議論を戦わせながら、最終的にみんなの合意に持っていく、というのが本来のあるべき会議の姿です。ただ、大きな規模の会社であったり、伝統的な職場は、昭和世代が支配していることもあり、どうしても、根回し文化に合わせざるを得ない事情があります。
郷に入ったら郷に従えの「郷」なのです。
まずは、自らの案件をスムーズに通すことが目的なのですから、まずは郷のルールに従いつつ、ゆっくりを本来のあるべき会議へのシフトを試みるのです。
実際には、まだまだ急激な変革を好まない職場が大多数なのが現状なのです。