「私にはちょっと高すぎるかも」と感じる1点物で自己変革する理由/人間国宝の作品から
もしあなたが会社員であるならば、お金の使い道として、日常の生活を維持するための日用品や洋服、食料などが大部分であると思います。一般的に高級品や贅沢品と言われているものを買う機会というのは少ないでしょう。
もちろん、年収1千万円以上もらっているような企業に勤めている人は、ブランドものや高級品をたくさん持っている人もいるかもしれませんが、全体としては少数派です。
私も高給取りではありませんので、車もエアコンもない生活をしており、電気代は夏でも2千円に達しないというありさまです。
しかし、そんな私の部屋には、場違いだと思うような品物がひとつだけあります。
重要無形文化財保持者、いわゆる人間国宝と呼ばれる作家さんがつくった作品です。
私は、ある理由があってこの作品を買いました。
竹工芸の人間国宝:勝城蒼鳳さん
私が買ったのは、勝城蒼鳳さんの花籠です。
花籠にはまったく興味はなかったのですが、旅先で開催されていた個展をたまたま見る機会があり、そこで、竹工芸の作品に出会ったのです。
初めは、カゴがただ並んでいた展示についてはスルーしていたのですが、どうも雰囲気が気になったので、もう一回戻って展示を見ていたのです。
すると、この個展は人間国宝の作品が並んでいるものと知ります。
全体として、シンプルでありながら、楚々とした雰囲気。
その空気感になんだか惹かれてしまったようなのです。
勝城蒼鳳さんは1934年生まれの御歳83才。
15歳で竹工芸の道に入り、そこからずっと竹一筋に生きてきた職人さんです。
2005年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定され、その作品は東京国立近代美術館にも収蔵されているほどです。
竹工芸を作るにあたっては、竹を育てるところから始めて、切り出しや染色、そして実際に編むところまで全てお一人で行うのだそうです。
最高の作品を作るために、最高の素材を育てて選ぶところから始めるわけです。これには、本当にびっくりました。
このようにじっくりと作っていくため、ひとつの作品に1年以上もかかることもあるそうです。
蒼鳳さんの作品は、草紅葉や驟雨(しゅうう)など、自然をモチーフにしたものが多く、作品を作る前には、実際に自然をよく観察し、その要するをスケッチに残すそうです。
実際に目に見えている光景を竹工芸にどのように反映させるのかというのは、とても難しいことのようですが、竹というひとつの素材で、その雰囲気を伝えることができるのは、すごいことのように思います。
例えば、これは「那須野の驟雨」という作品ですが、本当に驟雨(急に降り始める雨のこと)の様子が映し出されているように感じました。
実際の驟雨をよく観察し、その様子が鮮明にイメージできたからこそ、作品にもその雰囲気を転写することができるのだと思います。いい作品を作るためには本物を観る、ということが大切なのだと思いました。
なぜ人間国宝の花籠を買ったのか
私は花籠が展示されているところで、ずっと見ていたのですが、展示品は希望者には販売もしているようでした。しかし、人間国宝の作品なので、高いものだと数百万円という高額な値段がついています。
それでも、キュレーターの方がいうには、蒼鳳先生に「本当にこんなに安い値段で出してしまってよろしいのでしょうか」と何度も確認したそうです。人間国宝とはいえ、先生はとても質素な生活をしていて、裕福な暮らしではないとのことでした。
竹工芸の個展も2年前から企画して、ようやく開催できるようになり、展示が整った時には、キュレーターの方もおもわず涙が溢れてきた、と言っていました。
竹工芸は時間がかかるので、2年間で20点あまりを作るのがやっとのことなのだそうです。そして、このような大きな個展は、体力的にももう最後ではないか、とおっしゃっておりました。
見学していた展示品の中で、楚々とした雰囲気の小さな花籠がありました。値段を見ると、当時の1ヶ月分の給料を超えるような値段でしたが、まったく手に届かないという額ではありません。
そこで、急に、この花籠が欲しくなりました。欲しい、というよりも、この花籠がある生活というのは、いったいどのようになるだろう、と思いを馳せていたのです。
しかし、花籠1つに、大金を使うのも気が引けました。「確かに今、自分が見ているのは、魅力的だけど、ちょっと気持ちが火照っているだけではないのか」と思い、その場では買わずに、一晩考えることにしました。
キュレーターの方が遠くから様子を見ていたようなのですが、どうやら私は、1時間くらい花籠のところでたたずんでいたようです。
翌日の朝、改めて個展に訪れて、あの花籠の前で見ていました。
たぶん、私と花かごの周波数が合致したのだと思います。
もちろんその場では現金は持ち合わせていなかったので、カードで支払いをしたのです。ドキドキというよりも、自分のところにくるのだ、ということで、ホッとしたような気分でした。
個展が終わるまでは、展示のために預かっていただき、個展が終わると自宅に郵送されてきました。
花籠を部屋においてみて変わったこと
花籠は大きな桐の箱に入っており、ふろしきで丁寧に包んでありました。
人間国宝の作品が、自分の部屋にあるのが、なんだか場違いな感じがありましたが、この「場違いな感じ」が、空間に変化をもたらします。
場違いな感じというのは「違和感」です。そして、その違和感は、自分の部屋が乱雑であることから来たものでした。だから、「この花籠にふさわしい空間にしなければ」という意識が働いたのです。つまり、何かの行動を起こすフックです。
私は部屋を片付け掃除をし、この花籠を置いておくための本棚を買いました。
これで、少しは花籠を置いておけるような空間に近づきました。
そして、この花籠に何かを活けるために、生け花教室に通います。花籠が素朴な感じなので、主に野花をアレンジする教室で実際に花を触ってみました。
なぜ、わざわざ生け花の教室に通ったかというと、勝城蒼鳳さんが「この花籠は普段使いしてほしくて作った」ということを聞いていたからです。
人間国宝の作品だからと言って、大事にしまっておいたり、美術品として飾られてしまうよりも、生活の中で使って欲しいという気持ちが強かったのだそうです。
人間国宝に認定されてしまうと、どうしても、その作品は美術館で展示されたり、博物館に収蔵されたりすることを求められて、なかなか普段の生活で使うようなものを作りづらくなるのだそうです。
今回は理解のあるキュレーターのもとで、あまり制約のない状況で個展を開くことができたため、作品としては一級品ではあるけれど、小さな花かごのような普段使いを想定した作品も作ることができたのだそうです。
最初は私も大事にしまっておこうと考えていたのですが、勝城蒼鳳さんの意志にそって花を飾ろうと思ったのです。
そして、そのことを伝えたところ、恐れ多くもご本人からお葉書をいただき、花籠をきっかけに生け花に通ったことなど、普段使いを前提とした気持ちに対して喜んでくださいました。
チャンネルが合致したものは行動を変えるきっかけになる
工芸作品などの一点物は、世界に一つしかないものであるため稀少性があります。そして、それなりの値段がするのであれば、印象に残るものでしょうし、大切に扱うことになります。
そして、重要なのは、そのものが自分にもたらす未来です。
私の場合は、
人間国宝の花籠があれば、きっとそれにふさわしい空間にしたくなるに違いない
→そして、花籠がある空間に恥じない自分になるのではないか
..という期待です。
だらしないところも多い自分ではありますが、それを改善できるキーアイテムになるのではないかと考えたのです。
私は、この花籠を部屋でもよく見える位置に置いています。そして、自分がダレそうになると、花籠を見て背筋を伸ばすのです。
自分一人はとても弱い存在です。どうしても楽なほうに流れてしまいますし、気が緩んでしまうと、どんどん緩みが大きくなってしまいます。
私はそうした弱さに悩んでいたので、花籠を通じて自分や自分がいる空間を律しようと思ったのです。
自分を変えるキーアイテムは高価なものでなくてもいい
自分に変革をもたらすようなアイテムは、こうした花籠でなくても、人によってはジュエリーだったり、香水だったり、洋服だったり、車だったりするかもしれません。
これまでは、高価なもののほうが買う時に覚悟がいるし印象に残りやすい、ということで花かごの事例を出しました。
しかし、実は、高価なものでなくても、一点ものであれば、変革のフックになりえます。
人によっては、大切な人からもらったセーターかもしれませんし、お子さんが描いた絵かもしれません。そして、お子さんそのものが自分を律する存在かもしれません。
人は、落ち込んだり、元気が出ない時に、無意識に切り替えてくれる何かを探します。
その何かが「思いの詰まったもの」であれば、それは、見えない周波数を自分に送ってくれます。その周波数はメッセージです。そのメッセージによって、人は、また顔を上げて歩いていくことができるのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
お金の使い道として、生活を維持するための日用品だけではなく、時として、あえて自分自身に変革をもたらすようなものに投資しても良いのではないか、という話を書きました。
自分にあったものを探す時には、値段や他人の評判ではなく、自分自身に合致した周波数のものを選ぶことです。チャンネルが合う、ということは、あなたにとってもよいことですし、買ってもらうモノにとっても大切に扱ってくれるからいいことなのです。
そして、その周波数が合ったものが、自分の精神が落ち込んだ時にバランスを取ってくれるようなきっかけを与えます。
街を歩いていて、妙に惹かれる何かがあったら、それは、あなたが発している周波数が合ったものかもしれません。