アップル創業者スティーブ・ウォズニアックさんに会う/学校はテクノロジーの最先端を教えていない
アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアックさんに会って来ました。
iPhoneやMacなどでおなじみのアップルというと、2011年にこの世を去ったスティーブ・ジョブズが圧倒的に有名です。しかし、一緒に創業したウォズニアックさんがいなければ、今のアップルはなかったと言われています。
ウォズニアックさんは、今のパソコンの礎を築いたと言われるApple I(アップル ワン)をほぼ独力で開発し、その後の発展はいうまでもありません。
ウォズニアックさんは、本物のコンピュータおたくで、コンピュータが好きで好きでたまらなかったと言います。一方、ジョブズは物を売る営業がうまくて、ウォズが製品を作って、ジョブズがプレゼンをして売る、というのが、いつの間にかの役割になったようです。
普通の学校はテクノロジーの最先端を教えない
アップル創業当時のお話やスティーブ・ジョブズとの関係など面白い話もたくさんあったのですが、テクノロジーや教育を通じて、現在の働き方に関する事柄が興味深い話でした。
社会に放り投げられてから稼ぎ方を学ぶのが現在の姿
小中高と、学校で習うのは、伝統的な国語、算数、理科、社会といったものです。もちろん、これらは学問の基礎知識ではあるものの、そのまま社会に役立つ内容かと言われれば「う〜ん…」と考え込んでしまうかもしれません。
これは大学に行ってもそうで、特に法律や経済、文学部などの文系の学問を専攻した場合には、ダイレクトに仕事に活かせたり、生活に直結したりということは少ないでしょう。
結局、社会で生きていくためには、「社会」という得体のしれない広大な海に放り込まれて、生きながら学んでいく、という感じなのです。
こうした状況をとらえて「普通の学校はテクノロジーの最先端を教えていない」とウォズニアックさんは考えているのだと思います。
企業が求めているスキルや「手に職」の人材を育てたい
ウォズニアックさんは「企業が求めている人材」や「手に職がつく人材」になれるように教育していきたいと話していました。
企業が求めている人材に必要な教育や、手に職がつくような教育をすることによって、社会に出たときに、具体的に収入を得たり、家を買ったりすることにつながるからだ。
…というのがその動機でした。
アメリカはイノベーションの国だと思っていたので、学校教育から最先端の授業がされているのかと思ったら、実際には日本と同じように、社会に出てから直接役に立つような内容は少ないようなのです。
日本は会社への入り方しか知らない
日本も、どちらかというと、学校を出たら、どこかの会社に入って、1からその企業に必要な教育を受ける、というシステムになっています。要するに、高校を卒業したり大学を出たりしても、どのように収入を得て生活していくのかということがわからないわけですね。
ただ、「どうやら就職活動をいうのをやって会社に入社すると生活するためのお給料がもらえるようだ」ということは知っているので、みんなそのような行動に出るのです。
そうして、会社に入ってから会社員として生き方を教えてもらうわけです。
そこでは、名刺の扱い方や挨拶の仕方などの基本やコピーの使い方や伝票の切り方、仕事をする上で必要なソフトの活用方法なども教わります。
そのほか、うまく会社で働くために上司、先輩との付き合い方や職場の空気の読み方などもなんとなく教えてくれるようになります。
こうして、ようやく会社で働くための体制が整うのです。
会社で収入を稼ぐためには、まずは毎朝出勤しなければなりません。そして、少なくとも定時までは、自分に与えられた仕事をこなしていくことになります。これが最低限やらねばならないことです。そうすると、1ヶ月後には指定された銀行口座に給料が支払われます。
これは、会社が求めている人材として採用されたというよりは、会社に馴染みやすい人材として採用されている、と言っていいでしょう。
企業が求めている人材とは
でも、高校や大学で、「作業工程を短縮するための生産性向上について研究していました」とか、「最先端のプログラミングを学んでおり、どんなアプリも開発できます」なんていう学生がいたら、すぐにでも会社が欲しい人材になると思います。
自分が学校で学んできたことが、会社でそのまま活かしたり、応用できたりするのです。
これが、「大学の法学部で刑事訴訟法を学んでいました」と言っても、会社の中では、その知識がダイレクトに活かされる場面はほとんどありません。もちろん、法的なものの考え方、というような論理的スキルは生かされる場面があるかもしれません。
しかし、そうであっても、結局は、全然関係のない「発信文書のつくりかた」なんていうところから教わり、ワードやエクセルを使って資料を作るところから仕事が始まるのです。
では、ワードやエクセルに詳しければ、企業が求めている人材かと言われれば、それもちょっと違う気がします。
企業が抱える課題や問題点を解決したり、新しい事業収益を構築できる可能性が高いようなスキルを学んできた人材がビジネスとして欲しい人材です。
しかしながら、現在はそうした人材を教育できるような学校システムにはなってません。
個人で「手に職」をつけるとは
また、「会社に属さずに個人で生活していきたい!」と思っても、その方法や手段は学校では教えてくれません。手に職をつけて自分で稼いでいきたいと思えば、専門学校に通ったり、自分が興味のある仕事をしている人を探し出して弟子入りしたりする必要があります。もちろん、独学で学んでいくという手段もありますが、個人で生活していくための教育というものはありません。
だから、学校を卒業しても、どうして良いのかわからずに、とりあえず会社などの組織に属して働く、という選択肢しか見えてこないわけです。
学校で勉強している間に、自分の好きなこと、得意なことを発見して、そのスキルを伸ばしていく方法や、世の中にはいろいろな職業や仕事があることも知識として知る必要があります。
そうすれば、自分にフィットする仕事を見つけたりすることもできるでしょう。職業として見つからなくても、あの仕事とこの仕事を組み合わせて新しい仕事を創造することができたりするかもしれません。
そして、そのスキルをお金に変える方法を学んでいれば、社会に出ていくのに不安を感じることもないでしょう。逆に、ワクワクしながら学校を卒業していくのではないでしょうか。
結局、そうした「社会で生存していくための勉強」が、せっかくの多感な時期を過ごす学校教育では受けられないのです。
おそらくウォズニアックさんは、こうした状況に問題があると考えて、テクノロジーと教育に情熱を注いでいくようになったのだと思います。実際に、ウォズさんは「先生になりたい」と言っていました。
ジョークを言うことの大切さ
もうひとつ、ウォズニアックさんのお話の中で印象に残ったことがあります。それは、ジョークを言うことの大切さです。
ウォズニアックさんを知る主催者の話によると、エレベータで次の階につくまでの間、ずっとジョークを飛ばし続けていたと言います。
なぜ、ジョークを飛ばすことが大事なのか。
「嫌なことはすぐに忘れることです。文句を言ったり、誰かを責めたり、非難したりすることに時間を費やさないでください」
とウォズニアックさんは言っていました。
映画「スティーブ・ジョブズ」のなかでも、ウォズニアックさんは穏やかでお人好しに描かれています。実際にお会いしてみて本当にそうだと思いました。
ウォズニアックさんがブロック崩しゲームを作ったとき、スティーブ・ジョブズが、その売り上げを誤魔化して、ウォズニアックさんに報酬を少なく渡していたことを知った時にも、怒るようなことはありませんでした。
それだけ、自分を穏やかでご機嫌な状態にすることに気を使っているようです。
そうしたあり方が、いつまでも愛される秘訣のようにも思います。
さいごに
ウォズさんは講演会後の懇親会にも姿を見せてくれましたが、もともとオタクの性格であり、人前に出るのが苦手なようです。エージェントによる写真撮影には気さくに対応してくれましたが、その後は疲れが出たようで、控え室で少し休んだ後、懇親会が終わる前に会場を後にしたようです。
ウォズニアックさんのもとには、1日に何度も「講演をしてくれないか」という依頼が舞い込むようです。しかし、実際に自分からイベントに関わったのは人生において4回しかないとのことです。
そうした貴重な機会にお会いできてとても幸運でした。「Woz」とノートにサインも頂いてしまいました!
映画「スティーブ・ジョブズ」を観て以来、ずっとウォズニアックさんのことが気になっていたので、今回、実際にお会いしてお話を聞くことができて本当に良かったです。